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広島高等裁判所 昭和43年(ネ)159号 判決 1970年1月28日

控訴人

金藤ツヨコ

外六名

代理人

鍋谷幾次

被控訴人

孫谷哲雄

外二名

代理人

斉藤義信

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人等の負担とする。

事実《省略》

理由

原判決添付別紙目録記載(A)(B)の各不動産に対する控訴人金藤ツヨコの持分二七分の九、その余の控訴人等、および、訴外金藤(旧姓矢野)花子、同内田秀子、同金藤健一の各持分二七分の二について、山口地方法務局宇部支局昭和四一年七月六日受付第九六三四号をもつて、山口地方裁判所宇部支部の仮差押登記の嘱託による所有権保存登記がなされていること、また、同目録記載(C)の不動産に対する控訴人金藤ツヨコの持分三〇分の一〇、その余の控訴人等、および訴外金藤(矢野)花子、同内田秀子、同金藤健一同西島宏の各持分三〇分の二について、同支局昭和四一年一二月一〇日受付第一七二一〇号をもつて、控訴人金藤ツヨコの債権者麻岡隆久の代位申請に基づく所有権保存登記がなされていること、そして、被控訴人等が、昭和四二年一一月三〇日、山口地方裁判所において、前記各不動産に対する控訴人金藤ツヨコ、同金藤徳治の持分全部の仮差押決定を得て、同年一二月四日、その旨の登記手続を経由したこと、もつとも、控訴人等七名を申立人とし、訴外金藤花子外三名を相手方とする山口家庭裁判所宇部支部昭和三三年(家イ)第三四号遺産分割調停事件について、昭和三四年四月一一日、控訴人等七名が被相続人金藤滋の遺産である前記各不動産について各七分の一の持分を取得する旨の調停が成立した結果、前記各不動産についてなされている各所有権保存登記が実体関係と符合しないことになつたので、その更正を求めるため、控訴人金藤ツヨコを除くその余の控訴人等が控訴人金藤ツヨコおよび前記訴外人四名を被告として、山口地方裁判所宇部支部に所有権保存登記更正登記手続請求の訴を提起し(同庁昭和四二年(ワ)第一〇二号)、同年一一月七日、同控訴人等勝訴の判決の言渡があり、右判決が同年一二月一九日確定したことは、当事者間に争いがない。

控訴人等は、被控訴人等が右判決確定前に右各不動産について前記のような仮差押をしているので、控訴人等が右判決に基づき右各不動産に対する各持分の更正登記をするについて登記上の利害関係を有するため、右更正登記の承諾義務があると主張する。しかし、元来、不動産の共有持分権の得喪変更も、その登記をしなければ第三者に対抗することはできないのであつて、不動産の共有持分権の得喪変更が遺産分割による場合も、同様に、民法第一七七条の適用があると解すべきであるから、すでに認定したように、控訴人等主張の遺産分割の調停は、被控訴人等の仮差押登記前に成立したものであるけれども、控訴人等は、まだ、遺産分割の登記を経由していない以上、右遺産分割の調停による共有持分権の取得をもつて第三者たる被控訴人等に対抗することはできない。したがつて、そのような被控訴人等には、控訴人等が前記遺産分割の調停によつて取得した共有持分権に基づく持分更正登記の承諾義務はないものといわなければならない。なお、控訴人等は、被控訴人等が右調停による遺産分割の事実を知りながら前示仮差押をなしたものである旨主張するが、<証拠>に照らしてにわかに信用し難く、他に控訴人等の右主張事実を認め得る証拠は存在しない。

また、控訴人等は、被控訴人等が民法第九〇九条但書の第三者に該当しないから、同条本文の規定により、右遺産分割による共有持分権の取得は、その登記がなくても、被控訴人等にこれを対抗し得ると主張する。民法九〇九条但書は、遺産分割前に相続財産につき権利を取得した第三者を保護するため、そのような第三者との関係においては遺産分割の遡及効が及ばないこととしたものであるから、本件の場合の被控訴人等のように遺産分割後に権利を取得した者が右但書にいう第三者に該当しないことは、――その理由は別として――控訴人等のいうとおりである。しかしながら、同条本文が遺産分割の遡及効を規定しているといつても、それが絶対的なものでないことは右の但書がおかれていることからみても明らかであり、元来遺産分割は、相続開始後一旦法定又は指定相続分による共同相続人の共有となつていた相続財産について、共同相続人間におけるその配分を定めるものにすぎないのであるから、同条本文の規定にかかわらず、遺産分割による不動産の物権変動を第三者に対抗するためには民法一七七条の原則に従い登記を必要とするものと解するのが相当である。従つて、これと異なる見解に基づく控訴人の前記主張は採用することができない。《以下省略》(松本冬樹 浜田治 村岡二郎)

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